憧れの「最強ゲーミング環境」が完成した、はずだった
「これでやっと、理想の配信環境が整った」

デスクの下で静かに、しかし力強く光るHPのゲーミングPC「OMEN」。そしてデスクの上には、ストリーマーの神器とも呼ばれる白いミキサー「YAMAHA AG03」。 この二つが揃った時、私のゲーミングライフは次のステージへ進むはずでした。
高画質なAPEXやVALORANTをヌルヌル動かしながら、AG03を通したクリアな音声でDiscordボイスチャットを楽しむ。好きなBGMを高音質で流しながら作業する。そんな当たり前の日常を夢見て、決して安くはない投資をしたのです。
しかし、セットアップを終えて数時間後。私のウキウキ気分は、冷や水を浴びせられたように冷え込んでいくことになります。
「プツッ…ザザッ…」
最初は気のせいだと思いました。 ヘッドホンの接触が悪かったのかな? とプラグを回してみたりしました。 でも、違ったのです。
ゲームの銃声が一瞬遅れる。 友人の声が突然「ロボットボイス」のように歪み、何を言っているか聞き取れなくなる。 Youtubeで好きなアーティストのMVを見ていると、サビのいいところで「ブツッ」と音が飛ぶ。
これが、私とOMEN、そしてAG03との長く苦しい戦いの始まりでした。 今回は、同じような症状に悩み、「初期不良か?」「設定ミスか?」と眠れない夜を過ごしているあなたに向けて、私が解決に至るまでに踏んだ「すべての手順(失敗談含む)」を包み隠さずお話しします。
結論から言うと、この問題は非常に根深く、ネットに転がっている「よくある解決策」では太刀打ちできない可能性が高いです。でも、諦めないでください。解決策は必ずあります。
そもそもどんな症状が出るのか?
まずは、私の環境で発生していた具体的な症状を整理しておきます。もしあなたがこれに当てはまるなら、この記事はまさにあなたのためのものです。
- 使用PC: HP OMEN 25L / 40L / 45L シリーズ(またはVictusなどHP製ゲーミングPC全般)
- 使用オーディオIF: YAMAHA AG03 / AG03MK2 / AG06
- 症状:
- 不定期に「プツッ」「チリチリ」というノイズが入る。
- 音が0.5秒ほど飛ぶ(音切れ)。
- Discordや通話ソフトで、相手の声がスローになったりロボットのように歪んだりする。
- OBSなどで配信していると、自分のマイク音にもノイズが乗る。
- PCの負荷に関係なく発生する(アイドリング時でも飛ぶ時は飛ぶ)。
特に厄介なのが、「完全に壊れているわけではない」という点です。調子が良い時は数十分クリアに聞こえることもあるため、「直ったかな?」と期待させておいて、大事なランクマッチの最中に再発するのです。これが精神的に一番削られます。
試したけれど効果がなかった「一般的な解決策」たち
トラブル発生直後、私はGoogle検索の鬼になりました。「AG03 ノイズ」「Windows11 音飛び」「OMEN 不具合」……。 出てくる解決策は片っ端から試しました。ここからは、私が実際に実行し、そして解決に至らなかった対策リストを紹介します。
これらは決して無駄な作業ではなく、PCオーディオトラブルの基礎的な切り分け作業です。もしかしたら、あなたの環境ではこれで直るかもしれません(私は直りませんでしたが…)。
1. 【基本】Yamaha Steinberg USB Driverの再インストール
まず最初に疑うべきはドライバーです。 AG03を動かすための「Yamaha Steinberg USB Driver」。これが正しくインストールされていない、あるいは破損している可能性があります。
- やったこと:
- コントロールパネルから既存のドライバーをアンインストール。
- PCを再起動(これ重要)。
- YAMAHA公式サイトから最新版のドライバーをダウンロードしてインストール。
- さらに深掘り: ネット上の情報で「最新版(V2.x.x)だと不安定になる場合があるから、あえて古いバージョン(V1.x.x)を入れると安定する」という噂を見つけ、古いドライバーを探し出して入れてみましたが、結果は変わらず。「プツッ」という音は消えませんでした。
2. 【USB電源設定】セレクティブサスペンドの無効化
Windowsには「使っていないUSB機器への電源供給をカットして節電する」という機能が備わっています。これが音楽機材にとっては天敵で、勝手に電源を一瞬切られて音が飛ぶというケースが多発します。

- やったこと:
- コントロールパネル > 電源オプション > プラン設定の変更 > 詳細な電源設定の変更。
- 「USB設定」>「USBのセレクティブサスペンドの設定」を展開。
- 「有効」になっているものを全て**「無効」**に変更。
- デバイスマネージャー側も変更: 「ユニバーサル シリアル バス コントローラー」内の「USBルートハブ」のプロパティを開き、「電力の節約のために、コンピューターでこのデバイスの電源をオフにできるようにする」のチェックを外す。
これはDTM(音楽制作)をする人なら常識の設定ですが、私のOMEN×AG03問題には全く効果がありませんでした。HPのパソコンは独自に電源管理をしている部分もあり、Windows標準の設定だけでは制御しきれないのかもしれません。
3. 【BIOS/UEFI】マザーボードの更新
次に疑ったのが、PCの土台であるマザーボードの制御プログラム(BIOS)です。 OMENはHP独自のサポートソフト「HP Support Assistant」や「OMEN Gaming Hub」から簡単にアップデートができるのが強みです。
- やったこと:
- HP Support Assistantを起動し、ファームウェアやBIOSの更新プログラムがないかチェック。
- 最新のBIOSアップデートが来ていたので、祈るような気持ちで適用。
- PCが数回再起動し、ファンが全開で回り、無事に更新完了。
結果は……ダメでした。 起動直後は「お? いけるか?」と思いましたが、1時間ほどYoutubeを見ていると無情にも「ザザッ」というノイズが。BIOSを最新にしても、この相性問題は解決しませんでした。
4. 【USBポート】接続場所の変更とハブの利用
「USB3.0ポート(青い端子)だとノイズが乗りやすいから、USB2.0(黒い端子)に刺すべき」という説も有名です。また、PCからの電源供給が不安定な場合、外部電源付きの「セルフパワーUSBハブ」を噛ませると安定するという情報もありました。
- やったこと:
- OMENの背面にある全てのUSBポートを試した(Type-A、Type-C変換など)。
- ケース前面のポートも試した。
- AmazonでAnkerのセルフパワーUSBハブを購入し、それを経由して接続してみた。
- USBケーブル自体を、オーディオ用の高品質なものに交換してみた。
ここまで物理的な対策をして直らないとなると、さすがに心が折れそうになります。「もしかしてAG03本体の初期不良か?」と疑い、別のノートPC(MacBook)にAG03を繋いで検証もしました。 するとどうでしょう。MacBookでは全く音飛びせず、クリアに動作するのです。
つまり、「AG03は正常」。 「OMENも(単体では)正常」。 **「この二つを組み合わせた時だけ不具合が起きる」**という、一番厄介な「相性問題」であることが確定しました。
5. 【独自ソフト】OMEN Gaming Hubの無効化
HPのゲーミングPCには「OMEN Gaming Hub」という管理ソフトが入っています。LEDの色を変えたり、ファンの速度を調整したりする便利なソフトですが、これに含まれる「ネットワークブースター」という機能が悪さをしている説がありました。 ゲームの通信を優先するために、他の通信や処理をバックグラウンドで制御する機能です。

- やったこと:
- Network Booster機能をOFFにする。
- タスクマネージャーからOMEN Gaming Hubのプロセス自体を終了させる。
- なんなら一度アンインストールしてみる。
これも期待しましたが、決定打にはならず。多少マシになった気はしましたが、完治には程遠い状態でした。
ここまで、私が数週間かけて行ってきた「敗北の記録」をお伝えしました。 おそらく、この記事を読んでいるあなたも、上記のどれか、あるいは全てを試して、それでも解決せずに途方に暮れているのではないでしょうか?
「もうOMENを売るしかないのか…」 「AG03を諦めて別のオーディオインターフェースを買うべきか…」
私も本気でそう考えました。しかし、諦めかけていたその時、ふとした拍子に**「ある法則」**に気がついたのです。 それは、オーディオ機器の設定とは全く関係のない、予想外の場所からのサインでした。
盲点だった「通信」と「音」の奇妙なリンク
あらゆるオーディオ設定を見直しても改善せず、諦めかけていたある日のことです。私は気分転換に、Steamで新しいゲームをダウンロードしながら、バックグラウンドでYoutubeのライブ配信を流していました。
すると、今までとは比べ物にならない頻度で**「バリバリ!」「プツプツッ!」**という激しいノイズが発生したのです。 普段は「数分に一回」程度の音飛びが、ダウンロード中は「数秒に一回」、ひどい時は音が止まってしまうほど悪化していました。
「ん? 負荷が高いからか?」
最初はCPUの負荷を疑いましたが、タスクマネージャーを見てもCPU使用率は数パーセント程度。余裕しゃくしゃくです。 そこでハッとしました。
「もしかして、データを大量に通信している時に、音が飛んでる…?」
すぐにダウンロードを一時停止してみました。すると、嘘のようにノイズが収まります。 再開すると、また「バリバリ!」。 Discordで画面共有(高ビットレート通信)を開始してみると、また「プツッ」。
ここで一つの仮説が浮かび上がりました。 「悪いのはAG03でもUSBでもなく、LANケーブル(インターネット通信)なんじゃないか?」
これが、長く苦しい戦いの出口を見つけるための決定的なヒントでした。
真犯人の正体:「Realtek Gaming GbE Family Controller」
この現象について、「OMEN」「音飛び」「LAN」といったキーワードで海外のフォーラム(Redditなど)も含めて徹底的に調べ直しました。すると、少数ながら同じ症状に苦しむユーザーたちの報告が見つかりました。
彼らが口を揃えて指摘していた「真犯人」。 それが、OMENのマザーボードに搭載されている有線LANチップ、**「Realtek Gaming GbE Family Controller」**です。
なぜ有線LANが音を飛ばすのか?(DPCレイテンシの話)
少しだけ専門的な話をします。 PC内部では、様々なデバイス(マウス、キーボード、ネット、オーディオ)がCPUに対して「処理してくれ!」と順番待ちをしています。これを「DPC(Deferred Procedure Call)レイテンシ」と呼びます。
通常、この順番待ちは非常にスムーズに行われるのですが、どうやらOMENに搭載されている一部のRealtek製LANチップ(およびそのドライバー)は、少し行儀が悪いようなのです。 通信が発生するたびに、CPUに対して**「俺の処理を最優先しろ!」**と強引に割り込みをかけ、その処理に異常に時間がかかってしまうケースがあることが分かりました。
その結果、本来スムーズに処理されるはずだったAG03からの音声データ転送が後回しにされ、処理が間に合わなくなった瞬間に「プツッ」と音が途切れてしまう。これが音飛びの正体だったのです。
USBの設定をいじっても、BIOSを更新しても直らなかったのは当然です。原因はUSBではなく、隣で暴れているLANポートだったのですから。
【最終解決策】有線LANを抜き、Wi-Fiにする
原因が分かれば、検証は簡単です。 マザーボード上のRealtekチップを使わないようにすればいい。つまり、物理的にLANケーブルを引っこ抜くことです。
「ゲーミングPCなのにWi-Fi接続にするなんて…」
FPSゲーマーとしてのプライドが邪魔をして、正直かなり抵抗がありました。有線接続の安定性、低遅延は何者にも代えがたいものです。しかし、音飛びのストレスに比べればマシだと言い聞かせ、震える手で背面のLANケーブルを引き抜きました。
そして、Windowsの設定からWi-Fiをオンにし、自宅のルーターに接続。 恐る恐る、先ほどノイズまみれだった「Steamダウンロード+Youtube再生」のセットを試してみました。
結果:世界が変わった
……無音。 いや、もちろんコンテンツの音は聞こえていますが、あの不快な「プツッ」「ザザッ」というノイズが、完全に消え去りました。
10分経過。一度も飛ばない。 30分経過。クリアなまま。 わざと負荷をかけるためにDiscordで画面共有をし、裏で動画を流し、ブラウザで連打しても、AG03の音は一度たりとも途切れることはありませんでした。
「これだ……これだったんだ……」
数週間悩み、何万円もした機材を窓から投げ捨てそうになった原因が、まさか「LANケーブルを刺していたこと」だったとは。脱力感と同時に、ようやく解放された安堵感が押し寄せてきました。
「ゲーミングPCでWi-Fi」は実用的か?
ここで多くのOMENユーザーが抱くであろう疑問にお答えします。 「音飛びが治っても、ラグでゲームができなくなったら意味がないのでは?」

結論から言うと、現代のOMENとWi-Fi 6環境であれば、全く問題ありません。
OMENの無線性能はかなり高い
実はOMENシリーズ(25L/40L/45Lなど)には、Intel製の非常に高品質なWi-Fiモジュール(Wi-Fi 6 または Wi-Fi 6E対応)が標準搭載されています。これはノートPCのおまけについているような貧弱なものではなく、本格的な高速通信が可能なチップです。
実際にWi-Fi接続のまま『APEX LEGENDS』と『VALORANT』を数時間プレイしてみました。
- Ping値: 有線時 15ms → 無線時 17~19ms(誤差の範囲)
- パケットロス: 0%
- 体感ラグ: 全くなし
もちろん、プロゲーマーレベルのシビアな環境や、ルーターとの距離が極端に離れている場合は別ですが、一般的な家庭環境で「ルーターと同じ部屋」や「隣の部屋」程度であれば、有線と無線に体感できる差はほとんどありませんでした。
むしろ、音飛びで敵の足音が聞こえなくなるリスクの方が、ゲームの勝敗においてはよほど致命的です。
どうしても有線がいい!という人への「抜け道」
「いや、俺は絶対に有線を譲りたくない!」 「Wi-Fiルーターが1階にあって、PCは2階だから電波が弱いんだ!」
そんな方も安心してください。解決策はもう一つあります。 「USB接続の有線LANアダプター」を使うことです。
問題なのは「マザーボードに載っているRealtek製のLANポート」であって、有線接続そのものが悪いわけではありません。 Amazonなどで売っている、AnkerやTP-Link、Buffaloなどの「USB LANアダプター(1000円〜2000円程度)」を購入し、USBポート経由でLANケーブルを接続してみてください。
これなら、問題児であるRealtekのLANチップを経由せずに通信ができるため、音飛びを回避しつつ、有線接続の安定性を維持することができます。 Wi-Fiに抵抗がある方は、この方法が「最強の妥協案」となるでしょう。
なぜこの情報はあまり知られていないのか?
ここまで読んで、「なんでこんな重大な欠陥がもっと騒がれていないの?」と思った方もいるかもしれません。これにはいくつか理由があります。
- 「組み合わせ」で発生するから 全てのOMENユーザーで起きるわけではありません。「OMENのマザボ」×「Realtekの特定チップ」×「YAMAHAドライバー」×「Windowsのバージョン」という条件が重なった時にだけ顕著に現れるようです。
- 皆、オーディオ機器を疑うから 音が飛ぶと、誰でもまずはスピーカーやオーディオインターフェースを疑います。まさかLANケーブルが原因だとは夢にも思わず、AG03を買い替えたり修理に出したりして、「異常なし」で返ってきて諦める…というパターンが多いのです。
- 個体差がある 同じOMEN 40Lでも、製造時期によって搭載されているLANチップの型番が微妙に違うことがあります。そのため「私のOMENは全然大丈夫だよ?」という人と「全く使い物にならない」という人が混在し、情報が錯綜してしまうのです。
まとめ:OMEN×AG03ユーザーへの最終通告
長くなりましたが、私の結論はシンプルです。
HP OMENとYAMAHA AG03を使っていて、原因不明の音飛び・ロボットボイス・ノイズに悩まされているなら、四の五の言わずに一度「LANケーブル」を抜いてみてください。
ドライバーの再インストールに何時間も費やす前に、BIOS画面とにらめっこする前に、ただ背面のケーブルを抜くだけ。検証にかかる時間はたったの10秒です。 もしそれで症状が止まるなら、あなたは今日からWi-Fi運用にするか、USB LANアダプターをポチるだけで、あの快適なゲーミングライフを取り戻すことができます。
PCは「相性」の塊である
今回の一件で痛感したのは、自作PCであれBTOであれ、PCパーツ同士の「相性問題」は現代でも根深く残っているということです。 OMENもAG03も、それぞれ単体で見れば素晴らしい製品です。HPのデザインセンスとコスパは最高ですし、YAMAHAの操作性と音質は配信者にとって唯一無二です。 だからこそ、たった一つの相性問題で「使えない」と判断してしまうのはもったいない。
この記事が、かつての私のように「高かったのに…」と枕を濡らしている誰かの救いになることを願っています。 ノイズのないクリアな世界で、また戦場(ゲーム)でお会いしましょう!
